以下の内容は「拓心武道論〜道心を求めて(仮題)」という拓心武術の考え方をまとめた冊子(電子書籍)の内容の一部です。
拓心武道論〜道心を求めて(仮題)
序章
第1章 自己の心身を最も善く活かす道の追求
第2章 お金を出しても買えないもの
第3章 拓心武術の修練目標・キーコンセプト(鍵概念)
第4章 医学的見地からの拓心武術の組手修練の効用
第5章 拓心武術の効用と既存の武道の問題点
第6章 老いて身体能力が衰えるからこそ〜道心を求める
第7章 拓心武術は相対的な強さを目指さない
第8章 拓心武術の修練の先には
第9章 自他の関係性を知り、それを活かす
第6章 老いて身体能力が衰えるからこそ〜道心を求めて
勝負哲学の見直し。そのことも拓心武術の修練目的に含まれる。端的に述べれば、拓心武道の修練における「勝利」とは相手に勝つことではない。拓心武術の修練における「勝利」とは、自己の心と身体を最大に活かした時である。故に必ずしも、「競技のルールの中で勝者となること=勝者・勝利」という図式で勝負を判断しない。
多くの競技は身体のスピードや力を相対的に比較しているだけである。そのような競技は身体の能力が衰える老齢者が行っても無駄だ。なぜなら「伸びしろ」がないからだ。しかしながら拓心武道の修練における、「心と身体を活かすこと」を目標にするなら、壮年や高齢者ほど伸び代があると言っても過言ではない。その意味は、老いて身体能力が衰えるからこそ、心と身体のより良い活用方法の必要性を理解できるからだ。言い換えれば、「心(脳)と身体を最も活かす道の追求」という目標には「老い」が最高の教師なのだ。その核心は「変化を知る」ということである。その変化の中で自他を活かし続けるための叡智が道の力である。その道の力こそが変化の中でも変わらないものかもしれない。そして、その道の力を求める意識が「道心を求める」ということである。
さらに言えば、身体の痛みや障害は、最強のコーチであると思っている。そのコーチの存在をほとんどの人が気づかない。だが、そのコーチの声を聞きながら、心と身体の限界を少しずつ越えることができれば、自己の能力はより向上する。
私は拓心武術の意義、そして拓心武道の目的は壮年や高齢者にこそ理解できる道だと思っている。問題は、打撃系武術・武道が老いた身体には適さないと考えられていることだ。そしてスピードや筋力に依存した技、能力の追求を掲げた修練法が定着していることである。
私は、相手と組み合う武術の修練は、力と技を活かす「制力」の修練として、より有効だと思っている。一方、相手と離れ、攻撃を読み合う打撃系武術は、目付けを重視した読み合いを活かす「制機」の修練として、より有効だと思っている。だが、究極的にはどのような武術であっても、自我を抑制し、心をより善く活かすという「制心」を必要とするはずである。そして、目標を「制心」「制機」「制力」に定めること。そして本論でいう本当の勝利を目指すならば、老いて衰えた身体を活かす修練となるに違いない。また、心(脳)と身体の回路の機能維持に役立つ効用があると思っている。
ただし、その効用を得るためにも、本論で述べた、拓心武術の武道論(哲学)を基盤とする必要がある。補足すれば、拓心武術の修練を老齢者が行う際は、基本技の精度をより高めること。そして組手型を何度も繰り返し、かつ約束組手(拓心武術独自の稽古法)を丁寧に繰り返すことである。さらに組手を行う際、スピードに頼らず、また目先の勝負にとらわれることなく組手修練をおこなわなければならない。そして組手の裏側にある戦いの原則(戦術)を明確に読み取れるように意識することが重要だ。
私は青少年のみならず、七〇歳を超える高齢者も行うことができる修練法を考案した。それが拓心武術の修練である。もちろん、ある程度の筋力が必要なことは言うまでもない。しかし、もし20〜30分歩行する体力があれば十分である。そして心と身体の回路を繋ぐ機能や他の身体機能の活性化には歩行より効用があると思う(私は障害があるので30分も歩行しない)。 もちろん高齢者と青少年や壮年の人達の修練の始め方(基本習得の方法)には異なる部分がある(より良い方法が別にある)。
だが、拓心武術の修練の核は防具によって安全性を確保した組手法である。そして相対的な強さではない「制心」「制機」「制力」という理法の会得を目標とする。そのような組手修練は、若齢者のみならず高齢者まで、一貫した目標を共有することができる。また、一緒に実施可能な修練法でもある。さらに、一部の専門家しか為し得なかった武術的な「技の読み取り」「読み合い」の能力の向上・会得の道を多くの人に開く修練方法である。
その「読み取り」の能力の向上は「目付け」の能力の向上につながる。さらに、それらの能力は護身術としての実用性ではなく、自我を抑制し、かつ活かしていく護心術(拓心武術の修練用語)の道を拓くことにつながるであろう。
増田 章のmy Pick