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Channel: 増田 章の「身体で考える」〜身体を拓き 心を高める
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上達する者

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【組手修練において意識しなければならないこと】

 

 拓心武術の組手修練において意識しなければならないこと。それは、「勝つための原則」を実践することである。具体的には、相手との位置(相手との角度)、間合い(距離)、攻撃するタイミング(機会)、目標(最良の攻撃目標)を選択し続けること。そして、その選択を勝利に繋げることである。言い換えれば、「勝つための原則」を活用・実践すること。だが、多くの人がそのことを意識しているようには見えない。そんなことを考えていないが、私は勝つことを考えている、という人たちには、勝つという意味(内容)が私のそれとは異なるということだろう。空手界の問題の一番はそこにあるかもしれない。それは技量・技能以前の問題である。

 

 私には、ヒッティングの上達が遅い人の傾向として、「勝つための原則(理法)」の重要性が理解できていない点を挙げたい。おそらく「子供たちに勝つための原則が理解できるのか?」と疑問を持つ人がいるだろう。もちろん、組手を行うだけの稽古なら、理解は困難に違いない。だが、拓心武術の修練は組手修練の前に攻撃技のみならず防御技、そして攻撃技と防御技を組み合わせ、融合して使うモデル(型・法則)を学ぶ組手型を行う。言い換えれば、記号と文法を学びつつ、作文を行うのである。そのような修練を行うことで、相手に自分の考えを伝える技能が身についていく。現在、組手の試合を経験を重ねる者の中から、そのことを理解し始める者が出てきたようだ。だが、まだ少ない。その原因は、かくいう私の伝達能力・技能が未熟だからだと考えている。

 

 さて、ヒッティング方式の試合を行えば、どんな人でも「攻撃を当たられることが嫌だ」と感じるだろう。また、「うまく当てることができれば楽しい」と感じるはずである。それは、私がそのようにコードを書いているからだが、この反応を活かすことが重要だ、と私は考えている。

 

【上達する者】

 私は常々、物事に上達する者は、自らの行為が上手くいかないことよりも上手くいくことを期待できる回路(思考・身体感覚)を有しているのではないかと考えてきた。また、嫌なことを思い浮かべるよりも、楽しいことを思い浮かべやすい回路を有していると考えてきた。さらに、そのような回路と心身の反応を活用して上手くなるのだ、と私は考えている。もちろん、物事に上達するには、最低限の経験と思索(考究)が必要なことは言うまでもない。上達する物事の基盤(経験と思索)がないのに上達が存在するわけがない。

 

 さらに想像すると、天才は上手くいくこと、楽しいことのみを強く思い浮かべることができる回路を有する者かもしれない、と思っている。そのように想像するのは、私の回路は天才のそれではないからだ。だが、たとえ普通の人間であっても、自らの回路(癖)を修正し、心身の反応を活用すれば、必ず上達・向上すると思っている。また、凡人の私はそう信じて生きてきた。

 

 言い換えれば、経験を積み思索を重ねた上で、たとえネガティブなことが思い浮かんでも、よりポジティブなことが思い浮かぶようにすれば、必ず人間は上達・向上する。この事実があらゆる技能の上達に裏側にあるということだ。

 

【感得】

 おそらく、子供は先述したような回路を家庭環境の中で体得していくのだろう。つまり、理屈ではなく経験によって感じとって理解していく。そのような理解を〈感得〉と、私は言いたい。

 

〈感得〉は重要な体験である。だが、すでに大人になった人には、その体験の機会が少なくなっていると考えている。ゆえに、私の考える拓心武術の修練では、人間としてより原初的な身体活動を通じ、〈感得〉の体験を提供したいと考えている。

 

 補足すれば、その身体活動は少しだけ危険を感じるような行為が良いのではないかと直感している。あまりにも安全すぎる身体活動は、錆びついた回路が活動しないように想像するからだ。断っておくが科学的な根拠はない。ただ、私の直感的イメージである。

 さらに言えば、感得を促進するには、理性で感性を補完する必要があると考えている。なぜなら、生まれてから身についた回路が上達に良くないものだという認識がなければ、その回路を変更することはできないからだ。その認識がなければ、より良い新たな回路を作ることは困難だと思う。もし新しい回路ができたとしても、劣悪な回路が関の山だと思う。だが、新たな回路作りは、かなりの労力が必要となるだろう。その労力を必要とする部分をガイドするのが拓心武術の修練法の眼目だと言っても良い。正直に言えば、私自身、今もって自分を鞭打つのは、自己が未熟だからだ。そして、なるべくより良い回路を作りたいと考えている。だが、「すでに時遅し」の部分もあるようだ。とにかく、大人になってからの回路作りは、強い意志と弛まぬ反復練習が必要である。そして何より、正しい理論と方法が必要だと考えている。

 

  

【技能を高めるにはどうしたら良いか?】

 ここで技能を高めるにはどうしたら良いか、ということをまとめてみたい。考えてみたい。まず、技術・技能を高めるには、物事の上達・向上の方法を理解し、かつ上達の回路を創り上げることを目指さなければならない。そのためには、物事(現象)の原因を突き詰めていく視点が必要だ。組手修練で言えば、戦いの原則(理法)を理解し、かつ、それを実践しようと心がけることである。そのような志を有する訓練だけが、自己を根本から作り変えていく。その結果、自己の心身が技能の本体となっていくのである。言い換えれば、高い技能とは、自己の本体と一体となった業(わざ)なのである。

 

【勝負とは】

 ゆえに私は、組手や為合い(試合)修練の目的を単なる「勝負・勝敗」とは考えていない。勝負とは自己の本体が戦いの原則(理法)を体得するための契機(きっかけ・機縁)と言っても良い、と私は考えている。そのように「勝敗」を考えるものは必ず上達する。だが、そのことを理解していない者がほとんどである。また、本当の勝負の姿が見えぬまま、いたずらに体力を浪費し、かつ身体を酷使している。私は、本当の武術修練には、現象を掘り下げる意志と「心身という道具」を活かすという感覚が必要だと考えている。

 

 私は空手武道、そして拓心武術を伝えることで、「心身という道具」を活かすという感覚を育みたい。そして、全ての人を上達の道へ誘いたい。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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