【間と制空域(制空領域)】
極真会館増田道場の修練で最も重要なことは試合修練です。ただし、試合を単なる競い合い、出鱈目に行うことはしません。あくまで試合は、空手の基本修練と応用修練を車の両輪のごとく機能させ、武道の本義である、相手攻撃を防ぐ技能と相手に攻撃する技能の体得を目的とします。そして、その修練を人間修行に転じることが極真会館増田道場の空手武道です。
さて、その組手修練を行う際、大事なことをお伝えします。まずは、相手との「間」を考えましょう。
「間」とは、相手との空間的な間(距離)のことです。ただし、「間」には心理的な間、また時間的な間もあります。基本となるのは、空間的な間です。空間的な間とは、自分の突き技が一歩の踏み込みで確実に当たる距離とです。ただし、空手の場合、蹴り技もありますので、自分の蹴り技が確実に当たる間もあります。それぞれを突きの撃間(つきのうちま)、蹴りの撃間(けりのうちま)と呼びます。2つの撃間を理解したならば、次は自分が自由に攻撃できる空間(エリア)を理解してください。拓心武道では、自分が自由に攻撃を行える空間を「制空域(制空領域)」という修練用語で表します。
実際の組手では、先ず以って自分の「制空域(制空領域)」を理解してください。その上で、相手が「突きの間にあるか、蹴りの間にあるか」、また自分が「突きの間にあるか、蹴りの間にあるか」を判断してください。
そして、いざ戦いが始まったなら、相手が自分の「制空域(制空領域)」に近づいたら、直ちに自他の間合いを判断し、防御および攻撃を行えるようにしてください。その際、相手の突き技を予測するか、蹴り技を予測するか、また自分は突き技で応じるのか蹴り技で応じるのかを考えられるようになってください。その際、反撃の突き技や蹴り技には、それぞれ特性や個々人の得手不得手を考えて、自分にとって最善の技と戦術を選べるように心がけてください。その判断と選択の経験を積む中で、技能が体得されるのです。また、組手試合の経験を吟味(検証)することで、どんな攻撃技や防御技が必要かがわかってきます。そうなることが上達です。
【機先の原則(理合)】
次に時間的な間についてですが、これは機先の原則(理合)を理解してください。機先の原則とは「仕掛けの先」で応じるのか「後の先」で応じるのかということです。「仕掛けの先」とは相手が技を仕掛ける前に技を仕掛ける攻め方です。通常「応じ」とは「後の先」の攻めを言いますが、組手修練そのものが、自他の認識を前提とする「応じ合いの修練(対応力の修練)」です。ゆえに、大きなくくりでは組手とは相手との応じ合いであり、ゆえに仕掛け技で攻めることも「応じる」と言っても良いのです。
より重要なことは、相手をより正しく、かつ迅速に認識すること。そして、その認識により「勝」を制することのできるように戦うことが肝要です。言い換えれば、状況に応じて、最善の選択と実践(行動)ができるよう心がけることが、最も重要なのです。そのことを了解した上で「仕掛けの先」で応じるのか、「後の先」応じるのかを自分とで決めるようにしてください。
ここで「後の先」の攻め(戦術)について、少しお話しします。「後の先」の攻めとは、相手の仕掛けに対し機先を制し、防御技によって相手の攻撃を弱体化してから反撃する戦術です。伝統的には先手必勝とばかりに、仕掛けていくことが弱い人の戦法として考えられていますが、むしろ後の先の戦法の方が弱者の戦術だというのが増田道場の考え方です。ただし、自分を安易に弱者強者と決めてしまわないで、「仕掛けの先」「後の先」、両方の戦術を試し、戦い方の原則と理法を学んでください。なお、後の先の戦術には、足さばき、体捌きをよくして、位置取りを正しく行い、防御技と攻撃技を用いるようにしてください。なお、足さばきがよくないと、より良い防御技と攻撃技の使い方ができません。ただし、ここでいう足さばきとは、何も早く動くことではありません。また、飛び跳ねるように動き回ることでもありません。このことは少年部には難しいかもしれませんが、実は無理のない自然な足さばきで戦えることが、最も優れた境地です。
最後に、「仕掛けの先」「後の先」の戦術の原則を体得するために、基本組手形があります。出鱈目に組手稽古を行うのではなく、基本組手形をまず習得したのち、また基本組手形を学びながら、組手を行うなら、組手技能の体得は早まります。一方、何も考えずに、目先の勝ち負け、また相手に技を当てることを考えているようでは、上達は一定のところで止まるに違いありません。
増田道場では、組手修練における技能体得を幹にしています。そのために深く根を張るように基本技の修練と掘り下げを行い、かつ、その精度を上げていくのです。
以上、少年部にもわかるように簡単に説明しましたが、組手修練とは、勝つことを目指すことは当然ながら、ただ勝てば良いということではありません。
最後まで、勝つための道筋がないか、探し求め全力を尽くして戦うことが基本です。そして、そのような過程、修練を通じ、戦いの技能を体得することが極真会館増田道場における空手武道の修練なのです。
さらに、技能の体得の過程において、自分を信じる力を涵養し、かつ善く生きるための叡智の井戸を掘っていくことが、我々の目指すところです。